柳下より地形読み課題 1-Navigation & Risk management

地形を読んで行動できるでしょうかというお題のツイートに大きな反響をいただきました。

GPS地図アプリが普及しつつあるとはいえ、地形を読む力は変わらず必要と言われており、その実例を考えてみた次第でした。現在地把握にはGPSが非常に有効ですが、今回の反響から、そもそもどう行動するかについては、やはり地図を読む力と自身や周囲の状況からの判断が大きく関わってくるということを感じました。

 

赤丸の送電線付近で現在位置がわかった状態から赤ルートにどのように復帰して下山しますか?

時期は10月、時間は15時、水の残量は300ml、

1070mのピーク方面から下山する方向で進んでいた

赤丸に着いた理由:コースアウトした、鉄塔巡りしているなど、個々に任せる

地図外すぐに集落があり、何らかの手段で帰ることができる。

https://maps.gsi.go.jp/#15/35.910655/139.104788

 

以下、私の考えをまとめました。

 

尾根を登り返す

まず、ルートミスしてここに来たとしたら北北東への尾根の分岐を見逃しコースアウトした可能性大です。したがって尾根でそこまで戻るのが、時間、装備、体力などに余裕があれば最も確実な行動です。

しかし、下山時にはお題のように登り返しに少し躊躇する状況も少なくないと思います。

それが原因で別の選択をしてさらに状況を悪化させ、最悪滑落という結果も起こりうるのだと思います。ですので、その選択をする際に地形を読む力が重要になると感じます。

 

なお、行動のペースは個人差ありますので、唯一の選択肢と感じた登り返しで日没前に下山できる人もいれば、間に合わずビバークの人もいるかもしれません。間に合わないならよりマージンを意識して時間やコースを検討することが大切だと思います。

 

 

尾根を下る

では下るのは絶対いけないかというと、そうではないです。既に下っただろう尾根の傾斜と形状が同程度ならリスクは小さいという観点から、このお題では下山できる地形がいくつか読み取れます(青、緑、黄の尾根ライン)。

 

緑のラインは尾根の乗り換えがやや難しいですが、送電線管理道があれば乗り換え可能な選択肢になります。渡渉の可否がポイントなりますが、直近の降水量は事前に確認できますし、入山時の周辺の川でも水量と流域の関係は確認できます。下りはじめる際にジャッジが必要ですので、あらかじめ増水が分かっていれば黄ルート選択になります。

これらのルートは誰でも行けるということではなく、それこそ様々な観点から地形を読み、自身の経験や不整地での行動スキルから行けると判断できた者だけが選ぶべきルートです。

 

なお、黄ルートへのトラバースができない状態(藪やガレなど)であれば、そのまま東へ尾根を登り返しがいいですね。

 

北へ最短距離で復帰

地形を読まずにGPS等を見ながら「とにかく最短距離で」の行動は危険があるということを示したかったのが、そもそものお題設定の狙いでした。したがっていきなり急斜面の下りで滑落の危険があります。

 

トラバースで復帰

また、下るのは危ないという考えからトラバースの選択は多かったです。しかしながらこちらも地形的にかなり厳しい要素に囲まれています。仮に送電線下に管理道があり最初の急斜面をクリアできても、最後は急登あるいは道を外れて深い谷の横断がまっています。

プランを否定するようで気がひけるのですが、少なくとも私のスキルでは周辺の傾斜などから安全に遂行できないと感じました。傾斜については別途考察しました。

 

なお、この事例では下りも是としておりますが、どう下っても急傾斜が待っている場合は

下ってはいけません。その例も示します。目前が緩やかな地形の場合、行けると錯覚しやすいので注意が必要です。この赤丸から北に延びる尾根では、かつて道迷いからの滑落事故が発生しています。


傾斜について

自身がロープ等を使わずギリギリ登降できた急斜面の計曲線間(高低差50m)の水平距離について調べました。10数事例ほどで、昨年のOMMJAPANでも大変な急斜面がありました。結果、それらは60-65m(39-37°)にほぼ収束していました。

 

ルート選択があった中で気になる箇所について計測してみると、やはり直感的に嫌だなと感じた箇所は自分の行動限界以上の傾斜でした。50mだと45°です。これを見て納得いかないか、救われると感じるかの判断は個々に委ねますが、傾斜は登山道から周囲を見ても確認できると思いますので、ピンとこなければ地図から安全に確認できる場所を探し、実際に45°の傾斜を確認してみるとよいかと思います。

 

以上、状況に応じた選択肢が増えることが地形の読めるメリットですが、その選択肢が意外に曲者で、チャレンジングな選択も可能になることが新たなリスクにもつながります。大切なのは、安全に下山することです。

 

 

最後に、このお題はあくまで机上で検討するものとしてツイートしました。検証に現地に行くのは全く別の次元の話です。行っては行けないという拘束力は私にないですが、万一それで事故が起こるようなことは最も望まないことです。

 

今回多くの反響をいただき、まだ拡散が続いておりますので、質問疑問等の補足や続編のお題なども検討したいと思います。

 

 

阿闍梨メンバーのコメント

北から延びてくる川の表記が実際どうか、単独か、仲間がいる場合は不整地スキルでまた変わる。(田島)

 

巡視路辿って降りる、を最初に模索します。それがなくて、ライト持ってなくてこの先がまだ長い前提なら様子見ながら西や南西に伸びる尾根を下るルートで早めに先へ進む。ライトあるなら無難に来た道戻ってルート復帰。この地図内で行程が終わるならライトなくてもルート復帰して日没には間に合うので、一人なら特にリスクを犯さないかも。現実的には10月のその時間までこの山にライト持たずに入ることはないので自ずと決まりそうです。

(トラバースはどうか?)トラバースはないですね。(小泉)